会員の動向

宇根 豊 氏

 ちくま新書より『農本主義のすすめ』(280頁、本体価格880円)が出版されました。山崎農業研究所所報「耕」連載(「畦道・赤トンボのナショナリズム」)をもとにした『愛国心と愛郷心―新しい農本主義の可能性』(農文協)にもとづく農本主義再考の書です。

高木 茂 氏

 『宗教と経済発展の相克 イスラーム農村における女性の活躍』を出版しました。下記は同書の"はじめに"(一部省略)です。

本書は,乾燥地に位置する貧しいイスラーム農村において,貧困削減に挑む女性たちの姿を開発との関連から描いたものである。ここで取り上げる主役は,西アフリカのサヘル地帯のガンビア,サハラ砂漠のモーリタニア,そして中東のイランの農村女性たちである。本書の目的は,農村経済が変容していくなかで,女性が直面するジェンダー問題と特徴を,実態調査によって明らかにし,改善方策を提言することである。ここでのジェンダー問題は,とくに農村の経済活動に絞り,2000年以降のグローバルな社会変化に適応しようとする,女性の実践的な取り組みに関するものである。さらに,イスラーム社会の女性は,ややもすると厳格な家父長制や男女の隔離にみられる固定的な観念で語られることが多いが,現実の農村における女性の生活や活動は抑圧ばかりでなく多様であり,常に社会の変化とともにあることも明らかにする。
 このようなテーマに取り組むようになったきっかけは,ガンビアで開発プロジェクトに関わった際に,ガンビア農業省の資料室で読んだJennie Deyの博士論文(1980)に触発されたことが大きい。Deyの論文には,ガンビアにおいて1960年代後半~1970年代にかけて実施された近代的な灌漑稲作プロジェクトによって,男女の社会的な関係で女性が不利な立場になるよう変化したことが詳しく分析されていた。そのなかには,プロジェクトによって,伝統的に女性が担ってきた低湿地稲作が喪失し,男性(家長)に灌漑水田が配分され,女性が自由に処分できる生産物が減少したことなどが指摘されていた。これを契機に,それまでの自分が生産性の向上や技術の改善ばかりを重視してきたことに気づき,女性たちが変容する農村経済のなかで,どのような戦略もって対応しているのかに興味をもったのである。このことが,開発プロジェクトにおけるジェンダーに目を向かわせるきっかけとなった。
 本書では,ガンビア,イラン,モーリタニアの3ヶ国を取りあげているが,これまで数多くの開発プロジェクトに参画したが,最もインパクトがあったのがこれらの国であった。