棚田学会発行の棚田学会通信(第27号 2009年2月20日)に掲載された「自給再考-グローバリゼーションの次ぎは何か」の書評を掲載します。
棚田学会通信
書籍紹介
山崎農業研究所編・発行
「自給再考」−グローバリゼーションの次は何かー
農山漁村文化研究所(本体1500円+税)
元東京農工大学大学院生 芳士戸 優二
「今日もお疲れ様!」と仕事帰りに駅の売店で購入するビールは昨年の値上げで、発泡酒に変わった。私のささやかな至福の瞬間に、国際的な食料価格高騰の波が突然やってきた。
この世界的な穀物価格や原油価格の高騰による食料品の値上げラッシュは、私たちの暮らし方を変えたといわれる。たとえば、2008年の外食産業の売上げは、ほぼすべての企業で前年割れをしており、「外食」志向から「内食」志向へと食生活が変化してきている。
このような出来事が起こるたび、日本の食料自給率は話題になる。しかし、意外に知られていないのは、現在の日本の食料自給率39%を支えているのは“誰か“ということ。実に、日本の人口のたった3%(333万人)の人たちによって、残り97%の人たちの食料をまかなっているという事実を、この本の著者の一人、結城登美男氏は指摘する。しかも、その大半が高齢の農家だったり、漁師だったりするのだ。
私も学生時代、新潟や長野、千葉などの棚田地域を歩いたことがあるが、お会いしたほとんどの方が60代以上。その人たちが一生懸命田畑で作業している姿を見て、普段何気なく食べていることの有難さを感じたものだ。そしてまた、日本の食料自給率を上げることは、そう簡単なものではないことを知る。
この本の中では、世界の食糧事情から日本の農村の多様な地産地消活動の広がりまで多岐にわたり、10人の著者がそれぞれの「自給論」を書いている。少々難しい話題もあるが、農村の自給自足の暮らし方や農産物直売所といった地域自給活動について、著者の実体験にもとづいた話はとても身近に感じ、私は好きだ。
私には、農家になる勇気も才能もないが、直接産地に行って、地域の人たちと語らいながら、日本の「食」を考えたい。これも自ら現地調達するという意味で「自給」だろうか。
幸い、日本には農産物直売所が全国に一万か所以上あるそうだ。最近ガソリン代も安くなってきたことだし、「ぶらり直売所の旅」でもしてみたい。
目次
世界の「食料危機」 西川 潤
貿易の論理 自給の論理 関 曠野
ポスト石油時代の食料自給を考える 吉田 太郎
自然と結びあう農業を社会の基礎に取り戻したい
中島 紀−
「自給」は原理主義でありたい 宇根 豊
自給する家族・農家・村は問う 結城登美雄
自創自給の山里から 栗田 和則
ライフスタイルとしての自給 塩見 直紀
食べ方が変われば自給も変わる 山本 和子
輪(循環)の再生と和(信頼)の回復 小泉 浩郎
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