第144回 定例(現地)研究会報告
下記内容での現地研究会は盛会にて終了しました。研究会は、当研究所事務局長の小泉浩郎の司会にて、研究所長 安富六郎、JA新ふくしまの理事長 樅  の挨拶がありました。その後、4名の報告を受け、各分科会に分かれてワークショップ形式での意見交流が行われました。参加者は全体で21名でした。
研究会の概要は以下のとおりです。


日 時:平成25年1月19日(土) 13:00〜
場 所:JA新ふくしま飯坂南支店 会議室  

        

挨拶

JA新ふくしま 樅山和一郎 理事

山崎農業研究所 安富六郎 所長 

参加者


1、原発事故が発生したチェルノブイリの視察報告

今野 文治 氏

【講演要旨】
1991年にロシアより独立し、面積日本の60%、人口983万人の国、ベラルーシ共和国を最近訪問し、福島原発事故への対策を模索した。

 ベラルーシの場合:ベラルーシ国の南、国境近くのウクライナ側にチェルノブイリがある。そのチェルノブイリ原発事故(1986)では放射性ヨウ素は炉心内の50〜60%、放射性セシウム134は20〜40%が爆発放出された。量はヒロシマの400倍、これは福島の数倍に当たる。

ベラルーシでは放射能と共存できる医療、育児、幼児育成、日常生活に、教育を通して放射性文化がつくられている。情報センターで情報管理を一元化している。

ベラルーシでは放射能安全値のなかにグレイゾーンを含めて考えていくことが提案されている。食品については、日本の基準値とは異なって、数倍高いものもあり、あるいは逆の場合もある。原発事故の場合は時間と共に低減するが、爆心地に近いところでは安全値にならない。こうした中で影響を受けた人々は周辺国からも積極的な協力の下で生活している。

福島の場合:国の支援、非被災地域からの協力がなかなか進まない。政府の復興への対応が遅れていて、地元での不満は大きい。バラルーシのように情報を一元的にまとめて提供できる組織づくりが必要だ。

果樹の樹体内での放射能の移動、分布に関しては品目ごとに特性がある。柿>桃>リンゴ>梨と蓄積される放射能の濃度等は異なる。しかし、管理の如何によっても移動、蓄積が違ってくる。せん定による枝の更新、収穫時期を遅延させない管理をする。カリ肥料を施しセシウム吸収を抑えるなど、安全を最大にする努力をしている。粘土質、砂質といった土壌による果実蓄積への影響については大きな有意差はなかった。なお、果実の検査部位でも差があるので、評価は難しいこともわかった。

今後の問題として、風評などを含め、研究課題は山積している。


2、ワークショップ解題   当日の資料はこちらをクリックすれば入手できます。
@住民参加型復旧・復興の方法 【講演要旨】

小泉浩郎 氏

大災害はこの国の大転換を示唆した。来た道ではなく、これからの道をどうするかである。それは「ふるさと」を原点とする再生戦略である。「高移動社会」から「共生社会」である。これは風土と共に生きる共生社会の再生であり、そこに住民参加型の原点がある。「無縁社会」から「定住・交流社会」にするために「ふるさと」の風土を生かした産業を盛んにして、都市と農村が支え合う新しい交流社会を構築することが必要ではないか。

 この「ふるさと」を特徴付ける農村、風土には、豊かな資源と蓄積された知恵と技がある。それらを守り、発展させる参加型再生計画を進める。そして行政の受益者ではなく、復旧・復興の当事者として、「ふるさと」の自治の中での各自の価値観と多様性を尊重した地域作りが求められるのではないか。
A放射性物質:汚染・除染の考え方 【講演要旨】

渡邊 博 氏

今まで水田除塩の実験をしてきた。また原発被害地の調査もした。放射被害のデータは分からないことが多い。放射線量の一時的な変動から言うのではなく、長期的な見方をしないといけない。チェルノブイリ原発事故での飛散濃度は10倍大きいが、植物によって吸収の様態が異なるので、わが国での作物への汚染について簡単に比較できない。

 農作物の場合、葉など表面に付着し気孔から吸収されるものと、土壌より根から吸収されるものに大別される。セシウム(Sc)の吸収による水田でのコメでの被害は、土壌中にカリ(k)分の少ないときに大きい。園地の茶では根からではなく葉から吸収されている。キノコは腐食質を通して吸収する傾向にある。

 土壌汚染の対策として、表土の剥ぎ取りは望ましくない。表土は農地の最も大切な部分であり、長年の土壌作りで作られる。剥ぎ取りでは、処理土の扱いも難しい。汚染濃度の比較的低い場合になるが、表土を剥ぐのでなく、すき込み(反転耕)するのが良い。放射能物質を吸収する植物としては、芝や牧草で高い数値が報告されており、これらの利用による除去対策も考える。

環境と農作物の検査・モニタリングを行政まかせにせず、自ら携わるようにし、風評に惑わされない対策を進める必要がある。

B産地再興:歴史に学ぶ 【講演要旨】


石川 秀勇 氏

平野地区など、福島市のこの地域は福島盆地のほぼ中央に位置し、ここに日本の果樹生産の歴史そのものを見ることができる。この産地の歴史を振り返り、先人の知恵と行動を学び、次代に引き継ぐ責任がある。福島盆地の気象特性、土壌条件を生かした多様な果樹生産をしている。福島県の果樹栽培面積は、モモが全国2位、ナシ3位、カキ5位、リンゴ6位等と上位にあるが、福島市と伊達郡からなる福島盆地でその半分を占めている。

 この地域は養蚕が明治以前から盛んであった。リンゴ、モモ、オウトウなどが栽植され始めたのは明治20年前後の頃である。大正期には当地におけるリンゴ栽培に打ち込んだ篤農家の阿部健次郎氏が知られ、氏は戦後も技術普及に尽力された。

 戦中から終戦直後にかけては、食糧事情の悪化からオウトウなど伐採された。が、昭和22年ともなると果樹栽培に時代の脚光が再来し、果樹園面積の同25年から30年にかけての著増など様変わりをし、果樹専門紙の発刊が始められるのどもしている。

 農業基本法、果樹農業振興特別措置法の制定をみた昭和36年から同60年頃までの間については、県の果樹振興に関わる施策も活発に行われるとともに、SS利用の共同利用防除組織の普及などが進んだ。

昭和から平成に移った頃の前後10年余の間については、対外経済摩擦への対応から牛肉・オレンジの自由化決定など、厳しい状況が続いた。これへの対処で、その前から始めていた福島のくだものの<ミスピーチ>による宣伝活動、<フルーツライン>沿いでの観光農園などについて、強化しての取り組みがなされた。

食料・農業・農村基本法の制定された平成11年頃からは、産地の持続的発展を期し各品目について高度技術の確立、普及をすべく、その取り組みがなされてきている。そこに原発事故が生じ、当面は除染など放射能汚染対策に意を注がねばならない状況となった。この対策については、活用できる国からの助成事業も明らかにされており、これを克服していかなければないが、同時に中長期的にみた産地としての協議の必要な課題が、栽培技術、経営、流通・販売、その他についてあるように考えられる。

明治以来の、ときに困難な状況を克服してきたこの産地の歴史を振り返ると、更なる発展に向けた再興が念願される。側面からの支援などできることあれば力にと思う。

C風評被害:そのメカニズムと対策 【講演要旨】

家常 高 氏

情報の真偽を見抜く力を養うこと。風評に被害は甚大。事実を大げさに曲げたもの、事実でない情報が市場に大きな被害を与えている。風評(R)を表わすのに、その重要度( i )と曖昧さ( a )との積として、R=I×a で表わす人がいる。これによれば、a が小さければ、真実に近ければ風評は伝わりにくい。

風評被害の特徴を捉えた表現に「ある社会問題(事件・事故・環境汚染・災害・不況)が報道されることによって、本来「安全」とされるもの(食品・商品・土地・企業)を人々が危険視し、消費、観光、取引をやめることによって引き起こされる経済的被害のこと」(関谷2011)としたものがある。

 被害を防ぐための対策として、次のようなことが急がれる。平時からホームページ(HP)の活用、マスコミへの情報提供体制の構築。事件発生後には正確な災害状況を確認して流す。HP、テレビ、ラジオ、新聞などマスコミに正確な情報を提供して、社会に現状を周知してもらう。

 更に「信頼を獲得できる情報」提供として、@農地の放射線量マップ作成とゾーニング、A地域・品目別放射線物質の農産物への移行率の把握を行い、生産戦略を組み立てる、B出荷前の検査(国・県によるモニタリング検査)を行う、C消費者自身が測定できる体制を作る、等を実行することである。

販売に当たって、いちばん気にすべきことは、消費者が安全・安心を重視していることへのPRである。日本農業新聞(2013/1/8)によれば、消費者トレンドとして努力の甲斐あって、キーワードとして「安全・安心」と答えた数値は低下する傾向にある。これは被害への対策が一定の効果を示したものであろう。しかし、現在でも最も高い要望には変わりはない。

その中で、検査結果の公表と情報提供方法の充実が望まれる。風評被害が依然としてあり、解消したと答える人は殆どいない。風評被害の根絶には長い時間が必要である。そのための努力が欠かせない。


   

3、分科会

@汚染・除染分科会 6名参加
A産地再興分科会
 8名参加
B風評被害分科会 7名参加